生まれた時には祖国が滅んでいた平成生まれの皆さん!ソビエト製の乗り物に揺られることを諦めてはいませんか?でも今ならまだ間に合います。あなたもソ連市民が組み立てたジェット機で空を裂き、連絡船で海を越え、丸顔の電車やバスで居眠りだってできるのです!
鉄道:チェプラエレクトリーチカ
例えばこの電車は恐るべきことに2005年製 |
ロシア人は週末になると、灰色の団地を出て美しき郊外へと繰り出すものです。そんな彼らのダーチャ(菜園付きの別荘)行きを支えるのがチェプラエレクトリーチカ。ペテルブルクの中心駅から、フィンランド湾沿岸の別荘地まで一直線。非電化路線に電車が乗り入れ、直通需要に応えます。いわばペテルのホリデー快速!
ソヴェツキー駅を発つチェプラエレクトリーチカ |
Теплоэлектричка(チェプラエレクトリーチカ)とは、ロシアの鉄道マニアが生み出したТепловоз(ディーゼル機関車)とЭлектричка(電車)の合成語。そして何より重要なのは、この行楽列車には特定の編成が充当されることです。機関車が電車を牽引する特異な運用のため、ペアは決まって70年代製のЭР2形電車とМ62形機関車。特に前者、71年式のリガ製ЭР2К-930は、流麗さと無骨さが同居する初期型のエレクトリーチカで、残存数からして中々狙って乗れるものではありません。ですから、もしあなたのご家族が沿線にダーチャを持っていなかったとしても、休日をチェプラエレクトリーチカに費やす価値は間違いなくあると言えます。
現在はロシア鉄道標準色に塗り替えられた |
肝心のダイヤについて。チェプラエレクトリーチカの運転日は春から秋の土休日。下りの6787列車はフィンリャンツキー駅を9時43分に出て、プリモルスクを経由しカレリア地峡南部のソヴェツキー駅に13時32分着。折り返し上り6792列車は16時43分発、サンクトペテルブルクに20時41分の到着です。ダイヤはここ数年不変ですが、ロシアで最も使いやすい時刻検索サイトPoezdatoで最新情報をご確認ください。
2022年4月追記: 丸顔編成の使用は2020年で終了。2021年はЭР2-1338を用いて運行されたが、2022年春の段階では今シーズンの運転予定がない。プリモルスクのチェプラエレクトリーチカは廃止された可能性が高い。 2023年までЭР2形を用いて運行。
2024年6月追記: 2024年の夏シーズンも運行中。昨年ЭР2形が引退し、存続が危ぶまれていたが、今年は新たにトルジョーク車両工場製のЭТ2形が登板した。現地マニアの間では、技術的な理由からЭР2形のみがチェプラエレクトリーチカとして運用できるとされていたが、どうやらそうした制約は無さそうだ。
船舶:サハリンの鉄道連絡船
今度は日本の目と鼻の先のお話。サハリンと大陸を隔てる間宮海峡では、1973年から鉄道連絡船が運航されており、2隻のソビエト製フェリーが現役です。ただ既に後継船が起工済みですので、乗船はお早めに[1]。
日付が回るまで乗船できなかったサハリン8 |
このホルムスク・ワニノ航路には、70年代から約20年にわたり10隻のサハリン型フェリー(プロジェクト1809)が投入されました。ソ連当局は、極東向けの連絡船の建造をカリーニングラードのヤンターリ造船所に担当させるという決定を下し、彼女たちの回航はバルチック艦隊さながらの大航海となったといいます。現在はСахалин-8以降の3隻が運用中ですが、90年代に完成したСахалин-10に旅客設備はありません。なお、建造中の新型船は、極東の工業都市コムソモリスク・ナ・アムーレのアムール造船所が受注したため、大回航は再現されません。
開けると二度と閉められない朽ちた船窓 |
ちなみに、鉄道連絡船を名乗っていながら、列車との接続は全く考慮されていません。私が乗船した時は入港が遅れ、1日1本の列車を逃しワニノで21時間の待機を強いられました。ホルムスク側に至っては長距離列車自体が存在しません。あくまで航路の主役は貨物で、車両甲板に押し込められるのは客車ではなく貨車なのです。
船賃に含まれている食事に朝昼晩の区別はない |
運航スケジュールは荷役が決めるものであり、2~3日前になってようやくSASCO社のHPで明らかになります。旅客は振り回されるだけ。私の場合は、23時集合2時出港でした。当然オンライン予約も不可。チケット売り場と待合所は、ホルムスクはレーニン広場の前で、ワニノは駅構内です。
手書きの避難経路図 |
こう書き立てると不満だらけのようだが、これほど強く印象に残った船旅はありません。古き良きソ連を感じさせる設備や、閉鎖空間ならではの乗客らとの交流は、いま思い出してみると愛おしいもの。また乗ってみたい。
航空:アルロサ航空のツポレフ
ソ連機で飛びたいなら北朝鮮へ行けばいい?でも社会主義国は制約がいっぱいです。せっかく旅するなら、自由で安全な国を選びますよね?うなずく人にはロシアがぴったりだ。誤解されがちですが、ロシアでも自由旅行は可能です。旅行者を縛るバウチャー制度は形骸化しており、高台から港を撮っていたら署まで連行された際も、警官は空バウチャーを問題にしませんでした。拘束も乗り切れるTravelRussia.su(空バウチャー発行サイト)に感謝。ちなみに.suはソ連に割り当てられたドメインで、言うまでもなくSoviet Unionから取られた二文字です。
このRA-65693は機齢38年のТу-134Б-3 |
話が逸れましたが、ロシアから共産主義時代の翼が消えようとしています。グローバルスタンダードに追いつこうと必死にもがくアエロフロートが、恥ずかしげもなくエアバスやボーイングを買い集める傍らで、地方の航空会社はソ連機を愛用していました。サハ共和国のダイヤモンド鉱山都市ミールヌイを拠点とするアルロサ航空も、そうしたエアラインのひとつですが、ツポレフの終焉は近いと現地メディアが報じ始めているのです[2]。
ミールヌイの採掘坑はダイヤ生産企業アルロサの象徴 |
尾翼のダイヤが眩しいアルロサ航空は、ツポレフを定期運用するロシア最後の事業者です。特にRA-65693は、1980年にハリコフで生産されたツポレフ134で、定期便として現役であるのは奇跡としか言い様がない骨董品。軍用機じみた精悍なノーズと、ソ連機特有の逞しい脚を有するTu-134の初飛行は、半世紀以上前の出来事です。
Ту-134のトイレでは空から天を仰ぐことができる |
アルロサは他にも、大ヒット三発機Tu-154も飛ばしています。ソ連が亡くなる前年に生産されたRA-85684は、神がかり的な不時着を成功させたことで有名な機体。しかし、そんな輝かしい経歴も、高騰する維持費には敵わず、アルロサは近い将来ツポレフを引退させる方針です。Tu-154に関しては、2機目の新塗装機が登場[3]するなど明るい話題もみられるますが、もはやTu-134は部品調達すらままならないといいます[4]。
不時着を耐えたRA-85684の武骨な主脚 |
ツポレフの乗り方を紹介します。就航地は時刻表に任せるとして、困難を伴うEチケットの買い方について。まずショッキングなことに、アルロサ航空の公式サイトには英語版が存在しません。そして個人情報入力ページでは、IDとして海外のパスポートを選択できません。要するに外国人が搭乗することを想定していないのです。今でこそ国籍欄が登場していますが、当時の私はやむを得ずロシア国民であると身分を偽り発券しました。
ソ連機に乗るのは怖い?彼らベテラン操縦士を見ても? |
このエピソードには続きがあります。すぐさまサポートに日本国籍を登録できなかった旨を申告すると、5分で返信が。素早い対応に安堵するも、喜びも束の間、よく確認してみると2枚の航空券のうち、訂正されたのは1枚だけなのです。両方登録し直してほしいと懇願したものの、アルロサ側は問題ないと一点張り。そのままミールヌイ空港のソ連式ターミナルに赴くことになりました。
結局のところ、私の心配をよそにロシア籍のチケットは薄暗いカウンターですんなりプリントされました。全ては私の一人相撲だったのです。旧ソ連諸国の地方部では、世界標準が行き渡ったと思われがちな航空業界においてもなお、気を揉むアクシデントが容易に起こり得ます。しかしツポレフやヤコブレフに搭乗するには、ローカルエアラインに飛び込むしかありませんし、むしろ西側水準から外れてこそ、ソ連機でのフライトに向け気分が高揚しませんか?
2019年5月追記: Tu-134は2019年5月22日に引退。ノヴォシビルスクの博物館で展示される見込み。
2022年4月追記: Tu-154も2020年10月28日をもって定期運航を終了した。
番外編:アルメニアのローカルバス
エレクトリーチカと同様に、ソ連製のバスを探し出そうとすると苦労します。一例を挙げると、ロシア全域を駆け回る愛らしい丸目のミニバス(ПАЗ-3205)は、前時代的なスタイルに反して実は大半が今世紀に入ってからの製品です。他方で、ロシアの外へ目を向けると状況は異なります。独立と引き換えに経済が低迷した一部の国では、正真正銘のソビエト車が踏ん張っています。
83年式だとギュムリの運転士が教えてくれた |
カフカスのキリスト教国アルメニアは、1967年に登場したПАЗ-672の最後の楽園です。このミニバスは、堅実な設計と高い整備性が評価され、後継のПАЗ-3205が現れる89年まで約30万台も量産されました[5]。パヴロフ・バス工場(ПАЗ)がロシアを代表するバスメーカーへと成長できたのは、ひとえにПАЗ-672のおかげと言えます。厳しい懐事情のアルメニアといえども、首都エレバンにおいては、中国の援助によって金龍客車製の新型バスが幅を利かせていますが、第二の都市ギュムリなど地方では、もうしばらくソビエト生まれの活躍が続きそうです。
ロシアで見ない日は無い丸目のミニバスことПАЗ-3205 |
旅に出る動機は何だっていいのです。探したい自分が居ないなら、ソ連に乗りに共産圏へ飛び出そう。
撮影: 鉄道編は2017年7月、船編は同年9月、飛行機編は18年2月、バス編は17年8月と同年末。
修正: ЭР2К-930とТу-154の塗装変更を追記(2018年6月9日)
参考文献:
[1] Сахалин.Инфо : В Комсомольске-на-Амуре началось строительство паромов для Сахалина, 2017年6月30日
[2] Rambler News Service : Авиакомпания «Алроса» заменит устаревшие Ту-134Б и Ту-154М самолетами Boeing 737-700, 2018年4月2日
[3] RA-85757 засиял новыми красками, UNWW Spotters
[4] Авиатранспортное обозрение | Деловой авиационный портал : В авиакомпании "Алроса" назвали сроки вывода из эксплуатации Ту-134, 2017年11月17日
[5] Обзор популярного советского автобуса ПАЗ 672, Promplace.ru
常用参考サイト: 現地同志による頼りがいあるフォーラム群
・Железнодорожная фотогалерея — TrainPix
・Городской электротранспорт — База данных / Фотогалерея - СТТС
・Автобусный транспорт — База данных / Фотогалерея — Фотобус
・БусФото — База данных / Фотогалерея — BusPhoto
・Фотогалерея речных и морских судов, база данных — Водный транспорт
・Авиафото — База данных / Фотогалерея — АФ
コメント
コメントを投稿