会津乗合自動車 下郷中学校

阿賀川を見下ろす小高い丘の上に、こじんまりとした中学校が建っている。
下郷町立下郷中学校は町で唯一つの中学校だ。
会津バスの停留所は、その小さな学校の中に設置されている。

会津乗合自動車 下郷中学校

三時を過ぎるとバス停は賑やかになる。五台のバスが一斉にやって来るからだ。
めいめいの行先を掲げたバスはプールサイドに停車する。

下郷中学校 バス停

下校時間帯の発着風景はなかなか壮観だ。
会津下郷駅を発った四台のバスは、縦隊を組みつつ次々と校内へ滑り込む。
行先はそれぞれ枝松、音金、南倉沢、戸赤。下郷中学校始発の落合入口行きを含めると、五台のバスが学校内で揃うことになる。

下郷中学校
国道121号を右折し校内へと進入する

一日に数回だけ、プールと校庭の間はバスターミナルに変貌する。
停車中のバスの群れは下郷町の隅々まで生徒を運ぶ。枝松行きは途中の新湯入口で小沼崎行きと大内上行きに接続するから、下校便だけでもこの停留所から七つの終着地に到達可能だ。
朝は会津下郷駅前行きと、南会津町まで足を伸ばす会津田島駅行きも顔を出す。

下郷中学校 停留所
路線バスからプールを見渡す

発車時刻は全車共通だ。
待機中のバスは一斉にエンジンを唸らせ始め、そろそろと進み出す。
こうした光景が夕方になると毎日三回繰り返される。

会津バス 下郷中学校
狭い校内を連なって走るバスの姿は見応えがあった

校外に出ると、バスは阿賀川に沿うように学校外周を北上し国道121号に戻る。
戸赤行きと落合入口行きは隊伍を離れるが、残り三台は旭田小学校前停留所を目指す。

会津バス 下郷中学校
戸赤線だけは小型車で運行されていた

旭田小学校前までの経路は少々複雑だ。

国道121号から甲子道路に入ると、三台のバスは旭橋で阿賀川を渡る。
すると南倉沢線と音金線は右に折れ、日本最古のラジアルゲートが並ぶ旭ダムを見下ろしながら坂道を駆け上がる。農協付近に至るとバスは左折し、再び甲子道路に戻る。しばらく東進すると十字路に到達。その交差点を右折すれば、県道347号上に設置された旭田小前停留所に到着する。

一方枝松行きは旭橋を過ぎても右折せず、南倉沢線と音金線が甲子道路に再合流する役場付近で右へ。そのまま南下し農協付近で左折すると、県道347号と交わる丁字路に行き当たる。そこを左折し県道を北上すれば、ようやく旭田小前に辿り着く。ちなみに枝松行きだけは旭ダム湖沿いに佇む下郷公民館前停留所を経由しない。

会津バス 田島営業所
旭田小近くの十字路にて南倉沢行きと枝松行きが交差

旭田小学校は数多くの分校を抱えていた。しかし今やその全てが廃校になってしまった。
三台の会津バスは、廃校によって生じた遠距離通学者の貴重な足なのだ。
旭田小前停留所を出発すると、バスはやっと各々の終着地を目指し散ってゆくのだった。


学校が交通の要衝と化すというのは、地方ではよくあることだ。
下郷町におけるバス路線網の中心は下郷中学校停留所である。ダイヤも登下校のみを意識していて、朝夕しかバスは走らない。土休日にいたっては完全運休で、観光バスを除けば下郷町からバスが消える。スクールバスが一般客も乗せている、との表現が適切な運行形態と言えよう。

下郷町内を走る会津バスの車内で、学生以外を見かけることは終ぞ無かった。
一度だけ中年の男性が目に入ったが、彼は出張中に趣味に興じる同業者であった。

なお、下郷中学校停留所は生徒以外も利用可能だ。

撮影:2014年9月

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